Salesforceが2026年9月11日、Agentforceに「職務ごとに設定済み」のAIエージェント7体を追加すると 発表しました 。カスタマーサービス、IT・人事、EC、営業、サプライチェーンといった職務それぞれに、必要なスキル・アクション・データモデルをあらかじめ組み込んだ状態で提供するものです。同時に、1回の会話で終わらず数日から数週間にわたって目標を追い続ける実行基盤(ロングホライズン・ランタイム)も投入されました。Agentforceを使っている、あるいは検討中の企業にとっては、AIの調達単位が「機能」から「職務」に変わる話です。
7体それぞれの担当と提供時期
7体には人名が付いています。担当と提供時期は次のとおりです。
- 名前: Casey / 担当: 音声・SMS・WhatsApp・Webチャットでの問い合わせ対応 / 提供時期: 一般提供中
- 名前: Paige / 担当: SlackやポータルでのIT・人事の社内問い合わせ対応 / 提供時期: 一般提供中
- 名前: Carter / 担当: ECでの商品探索・比較・チャット内決済の支援 / 提供時期: 一般提供中
- 名前: Marshall / 担当: サプライチェーンとバックオフィス業務の処理 / 提供時期: 一般提供中
- 名前: Piper / 担当: Webサイトや受信メールでのリード獲得と選別 / 提供時期: 一般提供中
- 名前: Fin / 担当: 複雑なカスタマーエクスペリエンス業務 / 提供時期: 一般提供中
- 名前: Hunter / 担当: 調査からアウトバウンド施策までの営業パイプライン構築 / 提供時期: パイロット中、2026年11月に一般提供予定
発表では導入企業の実績値も示されています。小売のHibbettは主要な購買導線の90%をエージェントが処理し、導入は6週間だったとされています。Asanaはサイト上の会話量が4倍になり、導入期間は平均45日。AnthropicはFinが会話の79%を自律的に解決しているとされました。いずれもSalesforce側が示した数字で、条件や測定方法は公開されていません。
「数週間走り続ける」ランタイムの中身
今回の技術的な核は、エージェントの動作時間を延ばした点です。Salesforceは3つの要素を挙げています。セッションをまたいで文脈と進捗を保つ記憶、時間が経っても計画を保持し途中で軌道修正する永続的な実行、そして利用者のフィードバックに応じて振る舞いを変える動的な調整です。営業のHunterであれば、与えられた目標を測定可能なゴールに変換し、計画を立て、必要なタスク・ツール・データを自分で決めていく、という説明になっています。
制御の仕組みも併せて示されました。エージェントは顧客企業の業務ルール・権限・セキュリティの範囲内で動き、AIの推論と決定論的なルールを組み合わせるオープンソース言語「Agent Script」で、どこを厳密に固定するかを指定できます。エージェントに長時間の裁量を渡すほど、この「固定する部分」の設計が実運用の成否を分けると考えられます。
なぜこのタイミングなのか
背景には2つの事情があります。ひとつは買収です。7体のうちFinは、旧Intercomを約36億ドルで買収したもので、 買収完了の発表は9月10日 。その翌日に製品ラインナップへ組み込まれた形です。Finは3万社以上が利用し、平均解決率76%とされています。
もうひとつは9月15日から17日にサンフランシスコで開かれるDreamforceです。年次イベントの直前に製品側の発表を済ませておく動きと見られます。Salesforceは、エージェントの処理量を示す「Agentic Work Unit」が累計70億に達し、うち32億は直近の第2四半期のものだとしています。同社が 8月にAnthropicとの提携拡大「Claudeforce」を発表した のと同じ流れの上にある発表です。
日本の読者への影響
まず押さえておきたいのは、今回の「一般提供中」が日本語環境での提供を意味しないことです。Salesforceの日本法人はこれまで、Agentforce 360を2025年11月、Agent ScriptとAgentforce Builderを2026年2月、Agentforce Coworkerを2026年8月5日、Agentforce Voiceの日本語版を 2026年8月7日 と、本国の発表から数か月遅れで国内提供を告知してきました。今回の7体も、日本語での提供可否と時期は別途のアナウンス待ちになります。価格についても、今回の発表に具体的な記載はありません。
そのうえで、検討を始める価値はあります。自社で1から組む場合と比べ、職務単位で設定済みのものを導入するほうが立ち上げは速くなる可能性があります。ただしHibbettの6週間やAsanaの45日という数字は、Salesforce製品とデータが既に整っている企業の話である点は割り引く必要があります。エージェントを長時間動かす基盤という意味では、 OpenAIが9月に公開ベータにしたAgents API とも競合します。自社でハーネスを組むか、CRMベンダーの枠組みに乗るかという選択です。
いま動くとすれば、次の3つです。第一に、社内で「エージェントに任せたい職務」を1つだけ選び、7体のどれに当たるかを対応付けてみること。第二に、その職務で絶対に自動化してはいけない判断を洗い出し、Agent Scriptのような決定論的ルールで固定できるかを確認すること。第三に、Dreamforce(9月15〜17日)で示される価格と日本語対応の情報を待ってから、見積もりの依頼に進むことです。


