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未解読のエニグマ暗号2通をAIが解読。GPT-6 AstraとClaude Opus 5

1941年のドイツ軍エニグマ暗号のうち、2005年から解けていなかった1通をGPT-6 Astraがほぼ自律で、別の1通をClaude Opus 5が人の指示のもとで解読しました。暗号史の研究サイトCrypto Cellarが検証済みとして9月23〜24日に公表しています。

第二次世界大戦中のドイツ陸軍のエニグマ暗号で、これまで解読されていなかった通信2通が、2026年9月に相次いでAIの手で解読されました。1通はOpenAIのGPT-6 Astraが、どの暗号を狙うかの選択から解読用ソフトの作成までほぼ自律で進め、もう1通はAnthropicのClaude Opus 5が研究者の指示と道具立てのもとで解きました。どちらも暗号史の研究プロジェクト Crypto Cellar Research の検証を経て公表されています。暗号そのものより注目したいのは、AIに長時間の調査を任せたときに「結果をどう検証したか」の記録が残っている点で、研究や調査業務にエージェントを使う人には参考になる事例です。

何が解読されたのか

Crypto Cellarのこのプロジェクトは、ジェフ・サリバン(Geoff Sullivan)氏とフロデ・ヴァイエルード(Frode Weierud)氏が率い、2003年から本格的に続けている、ドイツ陸軍の3ローター式エニグマ暗号の実物を解読する取り組みです。 FMNGIの解読報告 によると、1,000通近い収録通信のうち、今回の2通を解いた時点で未解読のエニグマ通信は7通になりました。

1通目の「MVUEH」は、1941年7月10日に親衛隊トーテンコップ師団の補給担当(Quartiermeister)の無線局が受信した82文字の通信で、 同プロジェクトの説明 では2005年からあらゆる試みを退けてきました。2通目の「FMNGI」は、同じ無線局が7月31日に受信した通信です。どちらも補給部隊の事務的な連絡で、歴史を書き換える内容ではありません。

2つの解読の進め方の違い
出典: Crypto Cellar Research、Leffen氏の解析記録(2026年9月)

AIは何をしたのか

MVUEHでは、開発者のカーター・レフェン(Carter Leffen)氏がGPT-6 AstraにCrypto Cellarの未解読通信を解くよう頼んだだけでした。Astraは候補の中からMVUEHを「最も見込みがある」と選び、エニグマの模擬機と、当時の解読機ボンブを模したソフトをPythonとC++で書きました。決め手は、同じ日の既解読通信(2017年に解読されたSIPVX)と内容が似ていると見抜き、地名「ROSENOW ROSENOW」を平文の推定語(クリブ)として当てたことです。ヴァイエルード氏は「人間の研究者なら数週間から数か月かかることを2日でやった」と書いています。

レフェン氏が公開した 解析記録 を読むと、うまくいった話だけではありません。最初に作った探索プログラム(山登り法)は、正しい設定の一部を与えても既知の答えを見つけられず、検査の仕組みを作り直してから大規模な探索に進んでいます。最終的には1,480万通りの鍵を通信の見出し(ヘッダー)と照合するなどして候補を1つに絞り、別実装のエニグマ模擬機とSAT(充足可能性)ソルバーによる独立検証で結果を再現しました。

FMNGIでは、ジャック・ウィリス(Jack Willis)氏がClaude Opus 5にGo言語の解析ツールと史料を渡しました。Claudeはまずスキャンされた通信用紙を書き起こし、判読があいまいな文字は無理に決めずに記録しました。そのうえで、別の通信(ALQFI)の末尾の署名などから、発信者の名前を含む14文字の推定語「XHARTJENSTEINX」を当てて鍵を探しました。ヴァイエルード氏は、Astraが「どの通信を攻めるかまで全部決めた」のに対し、Claudeは「より誘導型で、人の強い指導に頼っていた」と両者の違いを整理しています。

なぜ今これが起きたのか

エニグマの解読は、計算の力任せだけでは進みません。どの推定語を当てるか、同じ日のどの通信と関係があるかといった、史料を読み込む推理が要ります。これまで人間の愛好家や研究者が十数年かけても解けなかったのは、この推理と大量の試行を両方続ける手間が大きかったためと考えられます。今月の Claudeによる酵素系の発見 と同じく、推理・プログラム作成・検証を長時間まわすエージェントの力が、専門家の小さな未解決問題に届き始めた例と言えそうです。

一方で注意点もあります。ヴァイエルード氏は、Astraの記録に連邦公文書館の資料番号が出てくるものの、デジタル化資料に実際にアクセスしたのか、別の場所で見つけたのかは「はっきりしない」と書いています。AIが示した出典を人間がどう確かめるかは、今回も課題として残っています。

日本の読者にとって

国内でも、くずし字の古文書の翻刻などでAIの活用が進んでいます。今回の事例から持ち帰れるのは、AIに調査を任せるときの段取りです。

  • 着手前に、元資料の読み取りが不確かな箇所を記録しておく(MVUEHでは12文字分を不確定として扱っていました)
  • 答えが分かっている例題でツールを先に試し、見落とさないことを確かめてから本番に進む
  • AIが出した結論は、別の実装や別の方法で再現できるかを確かめ、AIが挙げた出典は人が原本に当たる

出典

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